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ソーホーの思い出:エッセイby太田房子

January 28, 2017

 

 長い航路を経て、ようやくたどり着いたニューヨークで夫との新生活が始まった。

妊娠・出産・子育てに奔走するあわただしい日々送るうちに、知り合いから紹介されたソーホーのロフトに住居をかまえたのは、渡米から3年経った1968年のことだった。

 

 当時のソーホー地区は、市の衛生局がゴミの収集にも来ないほど排他的な雰囲気が街を覆い尽くし、今では想像もできないほど荒廃した地域だった。その一角、クロスピーストリートのロフト・ビルは、1867年に建てられたというレンガ造りのかなり古い建物だった。私たち家族4人は、ワンフロアが1500スクエアフィートもある広い空間での新しい生活に、不安よりもむしろ弾む想いの方が強かった。

 

 新居のアパートは、高い天井の広い部屋は普通の状態でさえ寒い。古い造りのアパートはあちこちガタついていたため、窓枠の隙間からは、雪や風が舞い込むので透明なビニールシートを張って塞いだり、ささくれたった床は、素足では到底歩けないので、長女がハイハイを始めた頃にカーペットを敷き詰めることにした。ダルマストーブに石炭の暖房はガスストーブに替えて、少しずつ文化的な生活に染めていく。

 

 しかし、不便な生活を嘆いていたというわけでは決してなく、むしろかなり楽しんでいたと思う。入口にはインターカムはなく、友達が来ると窓から鍵を靴下に入れて投げ渡したり、窓は汚れたまま、誰も住んでいない様に見せかけたのは、”イリーガル・リヴィング[Office1] [Office2] [Office3] ”だったため当時のソーホー住民には、特有の開拓者的感覚があったと思う。ヒッピーの時代、ボヘミアン的な生活はむしろカッコいいとさえ感じていたのだった。

 

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